LOHAS

私の実家には、今は亡き祖母が毎日愛用していた真っ黒の鏡台が、未だ大切に保管されています。

休日などに一人、フェイスパックをしたまま鏡に映る自分をぼんやり眺めていると、過去の思い出が、なぜかふと頭をよぎりました。

 

幼い頃、私の初めての美容の先生は、間違いなく祖母でした。

庭での土いじりが趣味だというのに、色白で、いつだってお肌がツルピカだった祖母の洗顔方法は、固形石鹸を泡立てて洗うのみ。本当にそれだけです。

朝、パシャパシャと洗面台から水の跳ねる音が聞こえてくると、小さな私は、急いで近くに置いてある自分用の緑の椅子をズルズルと引きずって、キューという音を踏み鳴らしながら、祖母の隣に並びます。

「おばあちゃん、そのアワアワつけて!」

真綿のようなそのふわふわ泡をほっぺにつけてもらうと、満足げにくるくると指で回しながら、祖母の真似をして一緒に鏡に映る時間が大好きでした。

 

そのあと鏡台の前に移動すると祖母は、真っ黒な引き出しから、何やら細長いガラスの瓶を取り出し、ぴしゃぴしゃと何かをつけ始めます。これがいつものルーティーンです。

「私も!!」

けれどこのおねだりは、泡のおすそ分けのようにはいかないらしく、

「もうちょっとお姉ちゃんになったらね。」

と、代わりにいちごの飴を手渡されたものでした。

単純な私は、その甘酸っぱい取引で満足し、ほっぺの片側をまぁるく膨らませながら、祖母の様子を見つめます。あのガラス瓶の中身は、大人になるために必要な魔法の薬なのだと想像しながら。

 

しばらくその様子をただただ見つめている日々が続いて、ある日祖母が言いました。

「今日は特別に、美人さんになれるパックを一緒にしようかねぇ。」

「する!!」

すると祖母はおもむろに、鉢植えに咲くアロエを積み始めました。いつもは私が怪我をした時、膝などに塗ってくれるものです。

「アロエ?顔に塗ってもいいん?」

祖母はただニコニコ頷きながら、アロエの皮を丁寧に器用に切り落とし、中の身をザクザクとすりつぶし始めました。

お菓子作りのようなその作業一つ一つが、小さな私の心を大きく躍らせます。

「出来た。」

まずは祖母が自分の肌の上に、その透明な自家製パックを塗り始めました。

そしてやっぱり私も、祖母を真似て顔中にペタペタと塗りました。

ひんやりして、少しスッとした香りがして。

「おばあちゃん、つめたいね!!」

これが私の、パックデビューの日でした。

 

女の子は幼い頃から、母や祖母のお化粧品やそのメイクシーンを見て、綺麗なものに憧れはじめます。

もしかしたら多くの女性が、幼少期に母親の高価なお化粧品を勝手に使って、怒られた記憶があるかもしれません。私もその一人ですが、その憧れが女の子を、少女から大人に変えてゆきます。

 

けれどさらに大人になると、どうしてでしょうか。日々の忙しさの中で時々、顔を洗うことすら面倒になったり、自分のケアなど全くしなくなったり、義務のようになってしまったこのローテーションが、いつしかキラキラしたものではなくなります。

 

でも、それでいいのかもしれません。

毎日頑張るケアを続けるのは難しいことです。

 

あの頃シンプルに、自身のケアを簡潔に行う祖母のお肌は、いつだって生き生きとして綺麗でした。

今では一人、アロエの皮を丁寧に切り落としてぐるぐる混ぜたりはしませんが、代わりにシンプルで手軽なフェイスパックを自宅で行うようになりました。

 

鏡の前、祖母を思い出しながら貼り付けたパックは、アロエと同じ緑のシートに包まれたブリリアントハーブ。スッとした使用感が、真似っこばかりしていたあの時の記憶を蘇らせます。

ふわふわの泡や、ひんやりした触感で感動することはなくなりましたが、代わりに疲れをそっと削ぎ落としてくれるような、安心感がお顔全体に広がります。

 

10年後、20年後、自分はどんなケアをしているんでしょうか。

ひとまず今日は、あったかい思い出と、ひんやりパックに包まれながら、明日も頑張ろうと呟いた夜でした。

 

 

WRITER

叶 望実

7年間のヘアメイク経験ののち、 現在は美容クリニックのカウンセラーとして10数年勤務。

これまで約3万人以上の女性のお肌と向き合ってきており、『絶対に切らない美容』というコンセプトを胸に、ドクター達と共に『効果のあるアンチエイジング治療』 を追求。

ヘアメイクから転身したきっかけは、自身の肌荒れと同じ時期に、担当した美人女優さんのお肌がボロボロに荒れ、回復まで関わる日々の中で『隠す美容から治す美容』に興味を持つ。

美しいメイクは、きめ細かい素肌があってこそ。

自身のケアは『効果の高いものをシンプルに取り入れる』を基本としている。

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